地域おこしのアイデア

 香川県は今やうどん県としてゆるぎない評判を得ているが少なくとも40年前にはそれほど香川の「うどん」は知られていなかった。今でも麺通団というラジオ番組があり、うどんのうまい店を探索することをやっているが、確か、ミニコミ誌の一部のうどん好きの連載記事から「うどん」マニアが拡大していったように思う。まだ、瀬戸大橋架橋以前には宇高連絡船で高松に帰郷していたが、その時の連絡船で味わう一杯の立ち食い「うどん」で故郷に帰ってきたという実感を得ていたことを懐かしく思う。今では関東のあちこちに丸亀うどんのチェーン店があり、連絡船のうどんとほぼ変わらない讃岐うどんを楽しむことができる。香川の「うどん」の人気はもちろん、こしのつよい麺と透明な、にぼしの出汁にあるがそれ以上に食スタイルの庶民性にあるのではないだろうか。いろいろのうどん店が香川にあるが基本はセルフ・サービスである。自分で出汁やトッピング、薬味を選んで、うどんを温めたりすることもある。その結果として、非常に安価でスピーディである。ワンコインで十分、お腹が膨れる。マクドナルドのハンバーガーも人気が高いが、手軽さとコスパで両者は双峰であろう。
 全国的に有名な巡礼路として「四国八十八カ所お遍路」がある。私はまだ巡礼の経験はないが是非、試してみたいと思っている。徳島にある第一番所の霊山寺に行ったことがあり、巡礼をスタートするに必要なグッズ売り場にたくさんの人が居て、ここから八百キロメートルを歩くのであろう。熊野古道やスペインのサンチャゴコンポステーラも巡礼路として根強い人気があるが、時間を掛けてただ歩くことを通して精神的なもやもや、悩み、疲れがスッキリするということである。人間にはただ、自然の中を歩き続けるという時間がなくなってしまい、心のバランスを取りにくくなっているのかもしれない。しかし、徒歩巡礼の体験を得ようとすると1-2ケ月を要するのでそれほど多くの人が挑戦できる機会ではない。限られた人である。時々、お遍路の服装の人が歩いているのを香川県内で見かけるが札所を巡るその道は車中心の道であり、必ずしも歩行者にやさしい構造となっていない。巡礼路として十分に整備されているとは言えない。課題であろう。
 最近、気になっているのが香川の誇る「獅子舞」である。獅子舞は神社の祭祀の神輿や奴、神楽など神事の芸能のひとつである。この獅子舞を地域の伝統行事として残して毎年、活動しているグループが香川県にはまだ八百余りあり、この伝統芸能をなんとか、盛り上げ、残していこうとしていると感じている。実は私の住む集落もそのグループのひとつであり、秋祭りの頃には担い手となる若者を中心に踊りや鐘太鼓の練習を始め、その獅子舞を集落のほぼ全戸に披露して回る。そして、近隣の主だった企業、飲食店、スーパーなども店先で獅子舞を踊り、お店の繁盛を祈願して、お祝儀をいただくのである。そして、最後に地域の中心の神社に集まり、八つの獅子グループが独自の獅子舞を披露し、奉納する。この様子はとても賑やかで動物的で感動的である。全国にはこのようにさまざまな祭りが各地域にある。祇園祭や神田の夏祭りなど多くの観光客が集まるので有名である。香川の獅子舞はまだ全国的に知られているとは言えないし、私の集落の祭りも参加する人は昔からの集落の出身で獅子に関係した人に限られているようだ。集落に属しない多くの新規移住者は祭りから疎外されているように思う。もちろん、神社での祭礼なので誰でもそこに行けば見ることはできるが、祭祀を主催する側として参加する道が見えないであろう。一方、我が集落にも共通して、神事の伝統行事をどうやって継続維持していくかが課題となっている。古くからの神社の氏子、その氏子の集落やその集落が集まって中央の神社を支え、祭りを運用している。農業離れ・人口減・高齢化でその担い手が減ってきており、存続が難しくなってきている。
 この地方の衰退の問題は人口の都市集中化、企業の都市集中が長年続いており、政治課題として地方再生が叫ばれて多くのアイデア、政策、活動が行われている。その中で明るい話題がいくつかある。そのひとつは通信の充実で地方に居ても、都会のオフィスと変わらないデジタル環境が得られるようになったことである。光ファイバ、インターネット、WiFiなどで高速でデータがつながり、さらに巨大なIT企業がデータセンターに情報データを保存するサービスを行うことで都市と地方の差はなくなっている。また、最近の新型コロナの影響で一気に在宅勤務が普及し、Zoomなどのネット利用の会議システムが安価に利用可能となり、通勤が必須の状況でなくなりつつある。私はすでにリタイアしているが今でも勤務時代の仲間数人とグループでLINE飲み会やZoom会議で時々、情報交換兼他愛のない会話を楽しんでいる。江戸時代には藩を超えて旅行する人はまれであり、人々は地域の方言をしゃべっていたが、ラジオやテレビの普及で方言を話す人が減ったように思う。最近では近隣のスーパーやコンビニに行っても方言を使う人は少ない。人の移動が電車や車、飛行機と多様化し、増えることで国内旅行も増え、海外旅行も一般的となってきている。そして、インターネットと共に海外の情報を取り込める環境になっている。言語の問題はまだあるが、米国のローカル放送であっても、ネットで視聴できるサービスがいろいろある。海外のどこにいても、たとえば、ラインで顔をみながら、会話ができるのである。これは地方の田舎にいても、世界のどことでも知恵さえあれば繋がることが可能である。アグリツーリズムという言葉があるが、農業体験のできる宿泊サービスなども含んでいるが、フェスタツーリズムとして、祭り体験のできる宿泊サービスを立ち上げれば、担い手不足の神事である祭りとその芸能に興味を持って参加を希望する者を世界の中から見つけることができるのではないか。数年ごとに瀬戸内芸術祭というイベントを香川県の直島や豊島などの島しょ地域で開催している。そこでは多くの芸術家のアート作品が島々の中に展示され、それを鑑賞し、かつ島の自然や地元の料理を食べながら、巡ることができる。これが私の想像以上に海外の人に人気で日本の行きたい所の高位に入っているとのこと。一過性でなく、続いているので瀬戸芸の魅力はニーズを捕まえているということだろう。地域おこしが課題であるが、私の住む地域の中央の神社の歴史は古く、創建は750年頃と言われており、律令時代からこの土地は開かれ、祭祀を行ってきたのである。この伝統芸能をうまく、育成することで魅力のある資源になりうると考えるこの頃である。(サイト補助者MM)

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