エネルギー転換と日本の家

米国に6年間駐在したが、その間、地方都市サウスカロライナ州グリーンビル市のフラットハウスという2軒が中央でつながっている戸建てに住んだ。大家さんはリタイヤして隣の州に住むシニアでここを購入して、レンタルしていた。築10年未満のごく普通の住宅である。
 2階建てで1階にLDKと寝室、バス、トイレ、洗濯室があり、2階に2部屋とバス・トイレ、中二階にボーナスルームがある。だから、ゲストが来て宿泊しても十分の広さのある住宅である。そして、ボーナスルームの下はガレージとなっていて、外気にあたることなく、リビングからガレージにアクセスできるようになっている。非常によくできていて、もし、住宅をこれから建築するのであれば、大いに参考になったであろうと思う。
 不動産契約書にはいろいろ細かい要求事項があったが、不在時にもエアコンを切らないでつけておくこと、換気フィルターを2,3ケ月に1回交換することの注意があった。
 米国の一般的な家屋では常時エアコンをつけて循環させている。日本で育ち、小さい頃から省エネルギーの訓練を受けていた私はどこか決り悪さ、居心地の悪さを感じていたが、いつの間にか、この快適さに慣れてしまった。年間を通して室温20度前後で一定なのと、いわゆるセントラルヒーティングという方式で屋根裏部屋にはエアコンの本体があり、ここからすべての部屋にダクトで空調されたエアが送り込まれ、逆に各部屋にある排出口から戻ってくるようになっている。
 トイレも風呂もキッチンもエアが循環する。そして、各部屋のドアには大きめの隙間がある。だから、どの部屋もつながっていて快適なのである。そして、キッチンには日本では換気扇があり、調理の際の煙やにおいを屋外に排出しているが、米国にキッチンには換気扇がない。それでも、まったく匂いがこもることはない。
 しかし、換気口にはフィルタが装着され、確かに半年すると目詰まりが顕著となる。猫を連れていっていたが、通常、夏毛と冬毛に季節の変わり目に抜け替わるが年中一定なので、そのような脱毛時期はなかった。そして、屋根裏部屋に行くと、建築構造材が見えるがかなり厚い断熱材をつかっていることが伺えた。そして、家の窓は閉めて使うのが通常であり、開けることもできるが、ほとんどそのような機会はない。それでも電気代は日本に比べ安いので家計的な負担感はない。
 米国のエネルギー使用量が多いといわれるがその一端にはこのような贅沢なエネルギーシステムが標準となっているからであろう。日本に戻ってきて、日本に住むと日本の高い電気料金ではこのようなシステムを実現しようとすると家屋の設計からやり直しが必要だし、外気をふんだんに利用する生活に合わないであろう。
 日本はどうしても局所暖冷房であり、空き部屋には空調しない。しかし、日本でも北海道など寒さの厳しい地方ではセントラルヒーティングで家全体を暖房するらしく、必ずしも一様ではない。
 ドイツは環境先進国だが、どうなっているのか調べたことがあるが、基本はエネルギー消費を下げるため、断熱能力を上げ、少しのエネルギーで暖冷房できるようにしている。そして、都市部ではお湯を集中的に作り、これを配管で各家庭に送る熱供給システムとなっているらしい。この方が個別に暖冷房するよりも消費エネルギーは少なくなるらしい。
 街作りには都市全体での熱エネルギー、交通機関などトータルでの省エネルギー、脱炭素を設計することが重要で住宅街もむやみに拡大させないように施策されている。彼我の知的な都市の構想力の差に愕然としてしまう。化石燃料からクリーンなエネルギーへの転換はドイツもうまく行っているわけではないが、日本よりも何周かは先に行っているように思う。家屋の寿命は30年以上あるので、簡単に変えることはむつかしい。しかし、だからこそ、長期的な視点が必要であろう。太陽光発電や風力発電など再生可能エネルギーの利用も日本の歴史を踏まえた独自のアイデアで観光立国にするのか、エネルギー自給国にするのかなど広い議論と計画が必要ではないかと考える。(サイト補助者MM)

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