田んぼでイネを作り始めて2年目になるが、農業用水の供給システムがどうなっているのか気になって調べる。ため池に雨水をためて、利用者がルールを決めて、ため池の水門を開栓し、水路に水が流れると田に水を引き入れる。上流側の田に水が引き入れられるとその間、下流側には取水量だけ、幹線水路の水量が減る。水田には水を引き入れられるように幹線水路に接続する支流の水路があり、水量が十分あれば、支流への堰を開けるだけだが、そうでないときは幹線側の水路に堰をして支流側に流すことをする。その支流は田んぼの水口に通じている。一方、田の水尻からも排水できるように支流の水路に接続され、下流側に送ることができる。これらの水路とため池の管理を行う利用者の組合㉌あり、(土工)水利組合という。私の場合、2つのため池の水を利用するのでそれらの水利組合の組合員である。稲作の田植えから稲刈りまでの約4か月の期間に通常、週に二日、早朝から夕方まで開栓され、水路に池から放流が行われる。水利組合は長い稲作の水争奪の歴史の結果として出来上がった水管理システムの名残りで現在ではため池の水神祭の運用、当番係による水門開閉や「井出ざらえ」という水路の土砂の浚渫やため池の堤坊の草刈りを全会員が集まり、池単位の水利管理を行っている。水門の開閉当番や水路の清掃などソフト面での運用を行い、水路や付随する道路、水門設備等の修理保全・改良は行っていない。それは池単位ではなく、特定の地域の「土地改良区」で行っている。一方、この水利組合が運用するため池を含む広域の農業用水路の保全を行う土地改良区という管理組織があり、水路や道路、水門設備等のハード面の改良事業を行っている。田の所有者は経常賦課金という費用を負担して土地改良区という組織を維持している。土地改良区ではその地域の改善プロジェクトのコストを検討し、その受益者負担と市や県などの補助金を利用してプロジェクトを実現するという改良事業を行っている。
この「土地改良区」という言葉は団体、法人組織を意味しており、地域の農業者が組織するものでその地域の水や水路、農道、農地などの改良はその地域全体で共同で実施しないと意味をなさないのでその地域の資格者は全員、強制的に加入し、組織の維持に必要な費用を所有者で負担するというものである。
農業用道路や水路の持ち主が誰なのかは管轄する登記所の法務局保管の公図で確認することができるが、一般的にはその機能を果たしていないものは国が所有し、機能を有しているものは県や市が所有している。また、道路法、河川法の対象となるような大掛かりな公共物は国が所有し、管理している。
私のように親から農地を相続した場合、否応なく農地に付随する土地改良区の組合員となり、その農地を利用しようがしまいがその地域の農業用公共物の受益者として維持管理費用を共同で負担することになる。
実はこの水利組合や土地改良区の維持が稲作農家の減少とともに難しくなっている。私の住む集落は30軒であるが、農地を持つ農家は18軒であり、そのうち稲作を行う農家は5軒のみである。専業農家はもちろん、兼業農家でも稲作を行うだけのインセンティブがないのである。お米の値段が安くなり、従来の小規模稲作農業ではペイしないのである。だから、農地を持っていても、維持管理に費用が掛かるだけで利益を生まない。手持ちの農業機械が故障すると投資しても回収の見込みがなく、やめることが多い。お米で生計を立てるには高い値段でも売れる価値の高いお米をつくるか、または大面積の田で機械を使って、生産性を上げて価格競争力を高めるかであろう。ところが、この辺りでは私のような中山間地の小面積で大型機械も入らないような田がほとんどである。付加価値の高いお米を作るほか、生き残ることは難しい。
このような問題を抱えて毎日、田でおいしいお米作りを工夫している。情報テクノロジーが進んだ現代ではもっと違ったマーケティングが可能ではないかと思う。地域のおいしいお米がもっと高く売れるのではないかと思う。そして、地域にそのような農業者が増えてくれば、水利組合や土地改良区も維持され、進化するのではないか。(MMサイト補助者)