水田をどうつないでいくか

66歳になるまで千葉で私企業のサラリーマン生活をして、退職と共に親の遺産である水田を含む耕作地のある故郷t高松に戻ってきた。そこは、高校卒業まで育った郷里であり、懐かしい土地である。私の世代は一次産業から二次・三次産業に急激に産業が変化する時期であり、物資も人材需要もシフトし、都会のサラリーマンになることが自然な就職の流れであった。日本の戦後の経済発展、オイルショック、バブル期を経て停滞の時代を子供時代、学生またはサラリーマンとして過ごしてきた。
 退職後はどこで何をするか迷ったが、親から譲り受けた土地を再び耕し、野菜やコメを作って子供たちに送ったり、自給自足して慎ましく暮らせればよいと考え今に至っている。まだ始めて2年目であるが田を耕して百姓の真似事をやってみると、今、日本の農地が荒廃し、置き去りにされている状況が見えてきた。
 私の住む集落は30世帯の小さな集落であるが農地を持ち、米作りを行ってきた農家は17軒ある。しかし、現在、米を作っている農家は実に私を入れて7軒しかない。米を作るためには農地だけでなく、水が必須で上流の水源利用、ため池、水路などの保全管理が必要で長年にわたり、利用者で仕組みや組織をつくり、その費用を分担して維持してきた。しかし、米作りの採算悪化で離農者が増え、せいぜい、休日のみで自給あるいは小遣い稼ぎのための米作りを行う兼業農家がほとんどであったが、それも最近では高齢化や農業機械が寿命で故障するとそれを機に止めるという状況で米作農家はどんどん減少している。この傾向は我が集落だけではなく、近隣のどの集落でも同様の傾向である。
 この小規模個人稲作農業の衰退をどう立て直すかが長年の政治課題であり、私も日本の米作はこのままでは東南アジアや米国カリフォルニアなどの気候に恵まれ、安い労働力、広い面積で高い生産性の省力機械化農業に比べて劣り、競争力がないと思っている。
 そのため、政府の政策である土地を集約化し、企業化して、機械化により、生産性を上げる農業で対抗していかざるを得ないと漠然と考えていた。しかし、経済優先の農業では集約に有利な土地、少しでも広い土地の利用が進むが狭くて大規模農業機械がアクセスできないような土地利用は取り残される。また、省力化のために除草剤・防虫防疫剤などの薬剤や土地利用のために水路のコンクリート化やポンプなど人工建設物にすることで昆虫や魚貝類、鳥類など生物の住む自然環境を犠牲にしている。 
 一方で有機栽培により、ある程度の規模の米作でおいしいコメを作り、高品質・高価格の需要をマーケティングで掘り起こしている専業農家のグループもある。
 最近、農業に興味を持ち、都会から移住し、田舎に住んで農業を生活の糧とする若者が増えているらしい。ネットの普及で手作りの野菜やコメを販売できると考えているのではないか。しかし、大規模な企業組織の多くはその業界の激しい競争を生き抜いてきており、その企業サラリーマン生活に比べると個人事業の場合、農業にかぎらず、新規に起業して、競争を勝ち抜いて利益を得ることは簡単ではない。私も耕作放棄地を耕し、野菜やコメを作り、余った野菜を産直に出荷して売ってみたが、ほんのわずかの利益であり、年金生活者なればこそ、成り立つ趣味の園芸の域をでていない。自給自足の野菜作りがせいぜいであり、農業で利益を得ることは難しい。とても、家族を養い、子供に必要な教育機会を与え、しかも将来の老後に備える経済的余裕は得られそうもないと感じる。
 今、周囲の兼業農家では従来の個人農業を営み、農地の維持保全をやってきた人が減少して、耕作されない農地が増え、荒れ放題である。
 もうひとつの農業の方向はオランダなどで盛んないわゆる施設農業である。限られた農地に温度・湿度だけでなく、二酸化炭素や日照度などを制御して高品質の野菜を作る工場に近い。しかし、有機栽培を行い、自然破壊もしないように考慮されており、環境にやさしい農業となっている。しかし施設農業は温室や制御機器など、設備投資が大きく、マーケティングで販売力も必要であり、規模が大きいほど、個人ではなく、企業の進出が中心である。
 イギリスではナショナルトラストと言って、景観のよい地域をその財団が買い取って、保全管理するという。公園である。棚田や残したい自然を決めて、そこは田園風景としてお金をかけて管理するのである。日本は世界遺産として多くの神社仏閣や建築物が世界遺産に指定されて、観光資源となっている。このまま、農地が荒れて、乱開発されて自然の破壊されるままにするのでなく、その中で優れた里山の景観をある種の公園として、保全することが観光立国としての戦略ではないだろうか。
 しかし、これらの用途に向いた土地は限られている。ほとんどの農地は景観的にも大規模農業にも、施設農業にも競争力のない、中途半端な小規模の個人農業用地である。これらの土地利用についてはネット世代によるアイデアが望まれる。その土地に特化した競争力のある作物を開発して、活用することがネット利用の高度化により、可能となるであろう。具体的な解は見えないが、出口はネット利用により世界に繋がっており、需要の掘り起こしが可能であり、需給のマッチングは実際にやってみないとわからない。輸送の問題は残るが、世界の特定の顧客に向けて栽培することも可能になるのではないか。
 最後はどうしても、具体性に欠ける夢想に近くなってしまうが、この方向の発展すなわち、DXは急激であり、新たなモデルが出てきやすい。個人小規模農業のビジネスモデルについてはアルファ世代に期待したい。(サイト補助MM)

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