私の子どもの頃は公渕池の堤防はため池用水門設備のある幅の広い台地であり、特に中央は記念碑の立つ広場となっており、気候の良い季節には自治会の子供会で遠足に出かけた記憶がある。春にはつつじの花が咲き、夏はセミが鳴き、泳ぎの達者なものは池を横断するものもいたが私などはとても水に入る勇気はなかった。とても大きな池で静かで厳かな湖であった。この池の周囲は深い林となっており、水門設備付近しか開けてなかった。しかし、池の周囲の一部は細い道が池に沿ってあり、中央部からその道に入っていくと自然にできた大きな斜面に行きついた。斜面を挟んで向こう側にも踊り場があり、こちら側から向こう側に斜面を走って横切るという遊び場となっていた。斜面は少し丸みがあり、勢いよく走ると遠心力で何とか向こう側にたどり着く。勢いが弱いと斜面の下の方に落ちていき、たどり着けない。このスリルが楽しくて何度も走って渡るという遊びで楽しんだものである。
長じてこの公渕池が公園となったことを聞いて、この斜面の事を思い出し、どうなっているか幾たびかその地を探したが、公園化と共にすっかり地形が変わってしまい、この自然の遊び場がなくなってしまったのは残念でならない。このような自然の素敵な造形や手垢のついていない自然そのものがいつの間にか開発によってなくなってしまうことが他でもあり、仕方のないことではあるが、なんとかならないかと思う。しかし、現在の公渕森林公園は公渕池を囲う周囲全体を公園化しており、池の周囲をぐるっと回れるようになっている。周回距離は5㎞で半分程度は深い森の中を静かに歩くことができ、鳥の鳴き声や風、緑、花などを楽しめる。そして、無料の公園である。公園化によって、これ以上の開発は進まないので自然が維持できることを期待したい。
米国滞在時に国立公園をいくつか訪問したが中でも素晴らしいと思うものはイエローストーン国立公園である。ヨセミテやグランドキャニオンも素晴らしいがそれにも増してイエローストーンは格別である。広い公園なので車で移動しながら、公園内で宿泊をする。そして、自然をありのまま見せるようになっている。もっとも印象に残っているのはバッファローの大群である。見渡す限りの荒野をバッファローの大群が移動し、公園の道路をゆっくりと横切るがその鼻息の息遣いがハンドルを握っていて聞こえてくる。この迫力にはさすがにふざけていたずらをしようとは思わない。子供の頃に見たディズニーランドの冒険の国の狼が住むという土地を思わせる風景である。エルクという大きな鹿も運が良ければ見られるというが残念ながら、宿泊したロッジに迷い込んだ普通の鹿に出会っただけであった。しかし、公園では野生動物の生態が見られるというのは日本では実現は難しいであろう。奈良公園の鹿は野生というには人に慣れすぎている。シンガポールに居た時には近くにフォート・カニング・パークという小高い丘の公園があり、散歩によくいったが、さすがに常夏の国の公園であり、さまざまな南国の植物が茂る公園は都会の喧騒から離れて、静かに自然の緑を楽しめるがやはり国土と同様に狭い。
イエローストーンやヨセミテにしろ、探検家がその自然を発見して、これを国定公園として保存することを提唱して実現していったという。日本にもまだまだそのまま残したい自然がたくさんあると思う。公渕森林公園もそのひとつであるが、できるだけ、ありのままで残すことが結局、唯一無二の独自の価値となるのではないかと思う。四国八十八カ所など寺はある意味、自然が残っている個所である。うどん八十八カ所など香川県のうどんを有名にしたが、香川自然八十八カ所もたくさんの中から選定しても良いかと思う。私の好きな香川の自然二十景など暇を見て、個人的に探してみたいとも思う。(サイト補助者MM)